2021年1月23日

そう。それがすべての親の本音

 あれはもう10年以上前の話だっただろうか

ずっと忘れない保護者からのクレームがあった。

「うちの息子は,チームで一番上手。一番やる気もあって,一番才能も努力もしている。一番頑張りたいと思っている。なのに頑張れないのは先生のせいです。」

 当時僕は,この言葉を聞いて正直あっけにとられた。何を言っているのかわからなくなり,とっさに母親を否定するような発言を繰り返した。結局電話は1時間以上にもおよび,言われたことに対して自分も熱くなっていいかえす始末。クレームの電話のはずが,電話を切ったあとは,保護者を言い負かせた感じもあってか,満足感すら覚えた。

 その後、教頭先生に連絡。

「思い切ったことやったなぁ,でもあんまり意味のなかったこと,あとでわかるぞ」

 とか言われて,複雑な気持ちになった。案の定,土日に保護者が来校し,教頭先生が長い時間をかけて対応をするという結果になった。

 今後の対策とか、その後どうしろとかは特になかった。ただ保護者の話を聞いただけの,確かに「あまり意味のない時間」を生み出しただけだった。

 教頭先生には本当に迷惑をかけた。しかし当時の僕は方針がずれたりするのが嫌だったし,そもそも生徒の気持ちを正しい方向にしたいというつもりで発言したものだった。

 そんなエピソードを笑い話にできるようになって1年後だっただろうか,飲み会でその話題になった。校長先生も興味をもちながら聞いていたようで,自分がどうしたらいいかを聞く機会があったので話をふってみた。

 かなりお酒も入っていたこと,自分の中でこの問題は解決していることだったので,助言は,あまり期待していなかった。だが,その時に言われた言葉は、鮮明と覚えている。今となっては自分の教育に対する考えの基準だ。

「すべての親が自分の子どもが一番だと思っている。それは育児から始まって、ずっと続くものだぞ。それが子育て。すべての母親の本音が聞けたと思って、これからがんばれ」

 信じられない概念だった。確かに今までのクレームをふり返るとそういった考えがもとになっていることに気がついた。今では当たり前だと思っているが,本当に気づいてよかったと思っている。

 学校が変わり,同じような保護者に幾度ともなく遭遇した。でも同じ失敗はその後繰り返していない。むしろ,保護者を味方にすらできるようにもなってきた。

 久しぶりに再会した教頭先生にそのことを報告した。

「失敗だと思ったなら、成長だな。でもあの時は結構めんどくさかったぞ」

なんて笑いながら言われた。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

学校はおもしろい。やっぱり自分自身も含め人間を鍛える場所なのだと思ってこれからもがんばりたい。